蕎麦好きの独り言(2015.03.24up)

その壱七、「疑事無功」

三月は季節の変わり目でもあるし年度末なので忙しない日々が続く。
会社の仕事もバタバタとした日が続き、昔は不眠不休で働くのが当たり前で、私用で休むなど以ての外だったが、ある程度年がいってしまった今は、とっくりセーターを着て窓際でおとなしくしている。

家業ではこの時期各種団体の総会が立て続けにある。田舎での片手間の百姓暮らしでも実に色々な組織がすり寄って来て、なんだかんだの役職を押しつけられ片手に余るほどの組織の会合が待っている。
生産組合、転作組合、管理組合などは複数あり、集落営農組織や青申組合、果ては集落の総会等々…

会合終了後は直いがあり酒席となるのが常であるが、自分は出来る限り知らん振りしてそう言う席はスルーすることに努めている。それでも自分が役職にある場合はそうも行かず、本意ではないが時に呑み過ぎて家人の顰蹙を買うことも希ではない。
毎回感心するのだが百姓のオヤジ達は酒豪揃いで、ほぼ毎晩続く酒席を楽しげにそつなくこなす。同じ集落内でのことなので毎回似たような顔ぶれで、最後まで残る人もほぼ固定化する中、良く飽きないで毎回話すことがあるものだなと感心する。

どちらかと言えば気の短い質なので時にイラッとする場面が多い。
田舎社会では体育会系のコンパと同じで、ある意味先輩には絶対的な権威が付与されており、生意気なことは言えない空気もある。そして決まってそう言う輩は会合では意見を述べず、酒が入ってから大声で組織の批判をするのが頭の痛いところである。
まあ冷静に考えてみれば世代の違いで意見が違うことはある意味当たり前のこと、場慣れしている同輩達はそつなく受け答えし、立てるところは立てて受け流しているようだが、気が短く不器用な自分には出来そうもないことだと思うことが多い。

しかしながらそう言った会合は、地域の行政や営農等の情報収集には欠かせない場でもあり、また酒が入らないと出てこない情報もあったりして一概に否定ばかりも出来ない。
昔の百姓達は集落内が全てであり、視野も狭くあまり身になる話も聞けなかったが、兼業が進んだ現在は同じ百姓でもいろんな人材がいて面白い。
そしてそれらの会合が一段落する頃に春の農作業が本格化する。所謂百姓のアイドリング期間が三月なのだろう。



蕎麦の香りが心の糧…

蕎麦は現在転作作物として多く栽培されていることは以前にも書いたが、蕎麦粉の価格が上がっており蕎麦屋の価格も上昇しているようだ。
ちなみにあちこちの産直で蕎麦粉を仕入れている自分も値上がりを実感しているが、果たして生産者達にその恩恵はあるのだろうか。
筆者の暮らす近くでも蕎麦生産組合みたいな組織はあるが(筆者は参加していないので実態は不明)聞くところによれば収穫した全てを食用で出荷しているのかと言えば、答えはノーのようである。
ではどうしているのかと言うと、ある酒造メーカーに依頼して独自ブランドの蕎麦焼酎として加工販売しているらしい。

最近の傾向として農産物を製造するばかりでなく加工・販売まで農家が行う手法が脚光を浴びている。成功例も多く報告され行政でも農業収入の大幅アップをうたい文句に大規模化と共に大いに推奨している。
商才のある人たちから見れば宝の山なのだろうが、偏屈極まりない男には無縁の世界だ。
我が友人達にも自営している人間は何人もいるが、客あしらいが上手く、誰が見ても「ああこの人は商売人やの〜」なんて人はあまりいない。
人と人の繋がりなんて面白いもので「類は友を呼ぶ」などと昔の人は上手いことを言っている。



最上早生(500g)の打ち上がり

大して自慢できる生き方などしてこなかった自分に、行政が宣うファンタスティックな農業経営を批判する事は出来ないが、違和感を覚える事ぐらいは許されると思うので少し書いてみたい。

大会社を除いた多くの企業では物を作ることは出来ても、それらを手広く販売することは大変なことだと思う。しかし売れない物は作っても意味がないので、作った限りはどうにかしてさばいているのが実態だろう。それには相応の営業経費がかかり専門の担当者を置く場合が多いと考える。良い物を作っていてもそれをPRしなければ誰も振り向かないのが現実なのではないだろうか。黙っていてもバンバン売れる環境にある企業なんてゼロではないだろうが限りなくゼロに近いと考えている。
良い物を作る部門と良い販売をする部門の両立を個人経営(一人親方)で成功させている企業がこの国にはどのくらいあるのだろうか。

筆者の暮らす地域にも集落営農組織は存在し自身も加入し活動もしている。地域の担い手組織として、また農地の集積と大規模化、機械設備の集約と経費の削減を目指し、地域の農地を未来へ引き継ぐ役目を持つもの…
それらの組織は全て法人化して恒常的に人員を雇用し、将来は多くの税金を払える優良企業へ発展していく。
何と言う素晴らしいサクセスストーリーだろう。

確かに大規模な農家は存在しそれなりに利益を上げ活躍している。それを否定する気は毛頭無いが、補助金という餌で釣り上げた大量の零細農家を全て一緒くたにして、法人化させる手法に釈然としない人間は筆者ばかりだろうか。
誰かが言っていた言葉を思い出した。

「国の金には決して手を出すな。手を出したら最後、縛りがきつくて後戻りできなくなる…」

この地域にも両手に余る集落営農組織は存在するが、法人化出来る組織は多分一つか二つだろうと言われている。
そしてもう一つ、出入りの農機具屋さんが言っていたこと。

「一番体力があるのは兼業農家だよ… 今は専業農家ほど大変なんだから…」

どこかの国と違ってこの国にはまだ最低限の自由は保障されている。
やばいと思ったらさっさと逃げるのだ(笑)

石橋を叩いて壊れなくても、渡らない人はきっといるよ…